梅雨空の下の陽だまりに
むかーしむかし、雨の路地裏に、
自分の運命を悲観して斜に構えた態度をとる
小さな木がありました。
彼の名はパルプサン
彼の花が咲く時期は梅雨時。
でも、その時期が訪れても
花を咲かせることはありませんでした。
なぜでしょう?
他の花は春ののどかな陽の下で綺麗に咲くのに、
自分だけ毎日雨に打たれながら咲かなければいけないのが
納得いかないようです。
見かねてパルプサンの隣りに立っているお地蔵さんが
言いました。
『君は嫌かもしれんが、
君が花を咲かせると道ゆく人は喜ぶだろうなぁ』
パルプサンは聞こえないふりをして、
こころの中で答えました。
「なんで他人のために咲かなければいけないんだ、フン。」
緑色の大きな葉っぱの上にかたつむりが現われると、
やがて音も立てずに雨が降り出しました。
かたつむりのマイはつぶやきました。
『梅雨時にしか
姿を現わさない太陽があるって知ってる? パルプサン』
パルプサンは気になって考えました。
梅雨空なのに太陽が出ているわけがない。
どういうことなんだろう?
お地蔵さまがささやきました。
『自分の顔をみてごらんなさい』
パルプサンは水たまりに自分の姿を映しました。
でも、つぼみのままではよくわかりません。
パルプサンは白い花を少し咲かせてみました。
しばらく考えて、今度は花びらに色をつけて
全部咲かせてみました。
それでも、水面に映った自分の姿に
答えはないように思えました。
溜め息まじりで顔を上げたパルプサンは驚きました。
道ゆく人々が自分のことを見て
嬉しそうな顔をしているのです。
パルプサンは気づきました。
「梅雨がなくなることはないし、
他の花になれるわけでもないか。
自分にできることをしよう」
雨の裏路地に、小さな花が集まってできた
紫色や水色のかたまりが、あちこちに見られるように
なりました。
彼はそう、紫陽花(あじさい)の木だったのです。
彼の咲かせる花は、不思議と雨もまたいいものかもね、
と思わせる温かい雰囲気がありました。
まるで木漏れ日がモザイク状に照らしているようです。
梅雨時にしか現われない太陽とは、
誰もがこころの中に持っているものなのかもしれませんね。
それから毎年、
道ゆく人たちが足を止め集まるようになったそうですよ、
梅雨空の下の陽だまりに。
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